時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)法のご紹介



時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)法とは?


物体表面の反射率が温度によって変化する現象をサーモリフレクタンスと呼びます。とくに、温度変化が10 K未満と小さい場合、表面温度と反射率の変化の関係は線形近似でき、以下のように表現できます。


サーモリフレクタンス係数


ここで、Rは反射率、Tは温度、CTRはサーモリフレクタンス係数です。


時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)法は、バルク材料や薄膜、ナノスケールの構造体などのサンプル表面をインパルス加熱し、時間分解サーモリフレクタンス信号を測定することでその温度緩和波形を調べる光学的ポンプ・プローブ法です。未知の熱物性値をフィッティングパラメータとして使用して、測定データを熱輸送物理モデルでフィッティングすることにより、サンプルの深さ方向熱伝導率Kz、面内熱伝導率Kr、界面熱コンダクタンスG、熱容量Cなどのさまざまな熱物性値を推定できます。




時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)の測定方法


一般的なTDTR法では、フェムト秒パルスレーザーが光源として使用され、サンプル加熱用のポンプ光とサーモリフレクタンス検出用のプローブ光の2つに分割されます。分割されたポンプ光は、電気光学変調器(EOM)によって0.1〜20 MHzの範囲の周波数で変調されます。これは、サーモリフレクタンス信号の微弱な変化をロックインアンプで検出するためです。サンプル表面にはサーモリフレクタンス係数の高い金属薄膜を成膜し、その温度はポンプ光のインパルス加熱によって上昇した後、測定サンプルの熱拡散率に応じた減衰波形を示します。この表面温度の時間減衰を観察するため、遅延用ステージの光路長をさまざまに変えながらプローブ光の照射タイミング変えて測定を行います。得られた測定データは熱輸送物理モデルを用いてフィッティング解析を行い、分析対象となっている未知の熱物性値をパラメータとして変化させ、実験結果ともっともよく一致する値を求めます。


TDTR法を用いた測定と取得データのイメージ

図1. (a)TDTR法を用いた薄膜サンプルの測定の様子。 (b)サーモリフレクタンス信号の時間緩和の測定データのイメージ。


TDTR法の測定原理の詳細は「時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)の測定原理」をご覧ください。



時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)のメリット


  • バルク材料だけでなく、厚さ数十ナノメートルから数マイクロメートルの薄膜も測定できます。
  • レーザースポットサイズと変調周波数を適切に設定することで、サンプルの深さ方向熱伝導率Kz、面内熱伝導率Kr、界面熱コンダクタンスG、熱容量Cなどのさまざまな熱物性値を推定できます。
  • 非接触測定のため、大気中のサンプルはもちろん真空チャンバー内のサンプルも窓越しに測定できます。
  • 「音響エコー」と呼ばれる小さなピークの位置と金属中の音速から、金属薄膜の厚さを正確に測定できます。

(2022年1月)