ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)法のご紹介



ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)法とは?


TDTR法やFDTR法のポンプ光の変調周波数は、さまざまな熱物性値への測定感度と熱侵入深さに影響を与える非常に重要なパラメータです。特にナノスケール材料の熱伝導率のサイズ効果を分析するには、加熱周波数を広範囲にわたって変調して熱侵入深さを変えることで、平均自由行程(mean free path : MFP)の広い分布にわたって累積熱伝導率kaccumを測定することが必要です。


(詳細は「BB-FDTR法を用いたナノスケール熱輸送におけるサイズ効果の分析」をご覧ください。)


ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)法は、ヘテロダイン検出により、変調周波数を通常のFDTRの10倍に相当する200 MHzまで拡張したFDTR法のバリエーションのひとつです。[1]


BB-FDTR法はTDTR法やFDTR法と同様に、バルクおよび薄膜のさまざまな熱物性値の評価に使用されます。変調周波数が高いため、特に熱電変換材料開発などのナノスケールエンジニアリングで重要な準バリスティック領域の熱輸送の分析に適しています。




ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)の測定方法 [1]


BB-FDTR法の装置構成は、波長の異なる2つの連続波(CW)レーザーを使用したFDTR法とほぼ同じです。ポンプ用CWレーザーは、EOM1によって周波数f1で強度変調され、対物レンズによってサンプルに照射されます。もう一方のプローブ用CWレーザーも同じ対物レンズで集光され、f1で変調されたサーモリフレクタンス信号を検出します。


TypicalExperimentalSetupofBBFDTR

図1. BB-FDTR法の装置構成


EOM2は、反射されたプローブ光に対して周波数f2で追加の強度変調を与え、反射されたポンプ光とプローブ光をヘテロダインして、以下の三角関数の公式に基づいてf1 −f2およびf1 + f2の周波数変調成分に変換します。


TrigonometricFormula


反射されたポンプ光と高周波成分f1 + f2は、それぞれバンドパスフィルター(BPF)とローパスフィルター(LPF)によって除去されます。周波数f1 − f2のプローブ信号の振幅Rと位相φは、ロックインアンプによって検出されます。


追加の変調周波数f2は、f1-f2が常に100 kHz未満の定数に維持され、かつ高調波成分が除外されるようにロックインアンプの周波数帯域の上限近くの値になるように選択されます。このような条件では、高い加熱周波数によって引き起こされる高周波サーモリフレクタンス信号を、はるかに低い周波数で最小限のノイズで検出できます。



BB-FDTR法を用いたナノスケール熱輸送におけるサイズ効果の分析


ポンプ光の変調周波数を変化させると、下記の式の通り、熱侵入深さdpが変化します。


ThermalPenetrationDepth


ここで、αはサンプルの熱拡散率、fmodとωmodはそれぞれポンプ光の変調周波数と変調角振動数です。


dpがフォノンMFPと同程度の長さになると、準バリスティックな熱輸送効果が現れ、dpより長いMFPを持つフォノンはBB-FDTR法(あるいはTDTR法やFDTR法)で測定される"見かけの"熱伝導率には寄与しなくなります。[2]このような状況では、BB-FDTR法を用いて累積熱伝導率kaccumを測定できます。累積熱伝導率kaccumは、dpより短いMFPを持つフォノンからのバルク熱伝導率への累積的な寄与を表します。[3]BB-FDTR法は、変調周波数を広範囲に変化させることで、フォノンMFPスペクトルを測定することが可能です。フォノンMFPスペクトルを測定し、ナノデバイスの熱伝導率のサイズ効果を調べることで、ナノスケールの熱輸送の理解を深めることができます。


ThermalTransport

図2. (a)ポンプ光の変調周波数の高低と熱侵入深さdpおよび熱フォノン輸送(拡散輸送と準バリスティック輸送)の関係。 (b)縦軸にバルクの熱伝導率kbulkで規格化された累積熱伝導率kaccum、横軸にフォノンMFPを取ったフォノンMFPスペクトルの典型イメージ。



ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)法のメリット


  • バルク材料だけでなく、厚さ数十ナノメートルから数マイクロメートルの薄膜も測定できます。
  • レーザースポットサイズと変調周波数を適切に設定することで、サンプルの深さ方向熱伝導率Kz、面内熱伝導率Kr、界面熱コンダクタンスG、熱容量Cなどのさまざまな熱物性値を推定できます。
  • 非接触測定のため、大気中のサンプルはもちろん真空チャンバー内のサンプルも窓越しに測定できます。
  • TDTR法と異なり、BB-FDTR法(とFDTR法)は誤差の原因なり得る遅延ステージの動作を必要としません。さらに、高価な超短パルスレーザーも不要なため安価に装置を構成できます。
  • 測定対象の未知数自体と密接に関連しているためにTDTRでは測定前に行うことが難しい周波数選択を、BB-FDTR(とFDTR法)では回避できます。
  • FDTR法と比べて、より広範囲の平均自由行程にわたって累積熱伝導率kaccumを測定できます。


  • 参考文献


    [1] K. T. Regner, S. Majumdar, and J. A. Malen,
    “Instrumentation of broadband frequency domain thermoreflectance for measuring thermal conductivity accumulation functions”
    Rev. Sci. Instrum. 84(6), 064901 (2013).

    [2] Y. K. Koh and D. G. Cahill,
    “Frequency dependence of the thermal conductivity of semiconductor alloys”
    Phys. Rev. B 76(7), 075207 (2007).

    [3] C. Dames, G. Chen,
    “Thermal conductivity of nanostructured thermoelectric materials”
    Thermoelectrics Handbook: Macro to Nano, Chapter 42, CRC Press, ed. D. Rowe, (2005).


    (2022年1月)