周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法のご紹介
周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法とは?
時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)法は、バルク材料や薄膜の熱物性値を評価する強力な分析手法です。しかし、遅延ステージの機械的操作に伴い測定エラーが発生する可能性や、超短パルスレーザーを用いるため装置価格が非常に高価になってしまうなどのデメリットがあります。
周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法は、TDTR法のバリエーションのひとつであり、ポンプ光に対するプローブ光の遅延時間ではなく、ポンプ光の変調周波数を変化させてサーモリフレクタンス信号を測定します。TDTR法と同様に、バルク材料や薄膜などのさまざまなサンプルの熱物性値の分析に使用されますが、遅延ステージや超短パルスレーザーを使う必要がないため、TDTR法のデメリットを解消できます。
TDTR法とFDTR法ともに、分析対象の熱物性値に対する測定信号の感度は変調周波数によって変わります。高精度のTDTR測定を行うには分析目的に対して適切な変調周波数を選択する必要がありますが、そもそも変調周波数を変えることを測定原理とするFDTR法では問題にはなりません。
周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)の測定方法
FDTRには、パルスレーザーを使う方法と連続発信(CW)レーザーを使う方法の2つの装置構成があります。
パルスレーザーを用いたFDTR法はTDTR法とほぼ同じ装置構成となるため、FDTR法とTDTR法の両方を切り替えて測定できます。ポンプ光の周波数はEOMによって0.1〜20 MHzの範囲で変調される一方、遅延ステージの位置は特定の遅延時間で固定されるため、TDTR法で生じうるステージ移動に伴う測定誤差の心配がありません。
(TDTR法の測定原理の詳細は「時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)の測定原理」をご覧ください。)
CWレーザーを用いたFDTR法は、ポンプ光とプローブ光にそれぞれ異なるCWレーザーを使用します。ポンプ光の周波数はEOMによって変調され、プローブ光はポンプ光と同じ対物レンズによってサンプル表面に照射され、サーモリフレクタンス信号を検出します。超短パルスレーザーを使う必要がないため、安価に装置を構成できます。
いずれのFDTR法も、測定データを物理モデルでフィッティングして熱物性値を求める手法はTDTR法と同様です。
CWレーザーを用いたFDTR法のポンプ光は、パルスレーザーを用いるFDTRやTDTRとは異なり、理論上、変調周波数に制限がありません。ただし実際には、信号強度の低下と高周波帯におけるノイズの存在により、変調周波数は20MHz未満に制限されます。
なお、この周波数制限をヘテロダイン検出の原理を利用して取り除き、変調周波数範囲を最大で200MHzまで拡張したのが「ブロードバンド周波数領域サーモリフレクタンス(BB-FDTR)法」 です。
周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)のメリット
- バルク材料だけでなく、厚さ数十ナノメートルから数マイクロメートルの薄膜も測定できます。
- レーザースポットサイズと変調周波数を適切に設定することで、サンプルの深さ方向熱伝導率Kz、面内熱伝導率Kr、界面熱コンダクタンスG、熱容量Cなどのさまざまな熱物性値を推定できます。
- 非接触測定のため、大気中のサンプルはもちろん真空チャンバー内のサンプルも窓越しに測定できます。
- TDTR法と異なり、FDTR法は誤差の原因なり得る遅延ステージの動作を必要としません。さらに、高価な超短パルスレーザーも不要なため安価に装置を構成できます。
- 測定対象の未知数自体と密接に関連しているためにTDTRでは測定前に行うことが難しい周波数選択を、FDTRでは回避できます。
(2022年1月)