- 概要
- 主な仕様
- アプリケーション
- 論文紹介
製品概要
InFocus κ FDTRは、物体表面の光の反射率が温度によって変化する現象(サーモリフレクタンス)を利用して、薄膜や微小構造の熱伝導率などの熱物性値を測定し、その分布を観察する周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)顕微鏡です。
InFocus κ FDTRの最大の特徴は、数ミクロンからサブミクロンまで絞り込まれたレーザービームスポットと、その照射位置を自由に制御するレーザー走査光学系にあります。円柱座標系の三次元熱拡散モデルを使って解析をするため、熱伝導率の異方性を評価できます。また、放熱フィラーなどの微小粒子の熱伝導率評価も可能です。
さらに、オプションで高分解能ラマン分光測定機能を搭載することが可能です。ラマン分光測定により、サンプルの結晶性や残留応力などの情報を得ることで、1台の装置で多角的な材料分析が可能となります。
(FDTR法についての詳細は「周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法のご紹介」をご覧ください)
ポンプ用CWレーザーによってサンプル表面を最大50MHzの高周波で周期加熱し、温度応答の位相遅れをプローブ用CWレーザーを用いて検出して、サンプルの熱物性値を測定します。
顕微タイプのFDTRが可能にする熱伝導率の異方性評価
InFocus κ FDTRは、レーザービームのスポット径を回折限界近くまで絞り込むことが可能です。20倍(NA=0.45)対物レンズ使用時で、1/e2ビーム径はポンプ光で2.14ミクロン、プローブ光で1.19ミクロンであり、50倍や100倍の対物レンズを使えば、サブミクロンまで絞り込めます。
顕微タイプのFDTRの測定では、多くの試料において、三次元での熱拡散現象が生じます。そこで、解析時の物理モデルには円柱座標を用いた三次元熱拡散モデルを用います。熱伝導率に異方性のある材料を測定する場合、面直方向の熱伝導率と面内方向の熱伝導率をフィッティングパラメータとして、熱伝導率の異方性を評価することも可能です。
各フィッティングパラメータの測定感度(センシティビティ)を計算する機能も搭載しているため、事前に感度の有無をしっかりと確認した上で測定に臨むことができます。
多彩なスキャニング機構による、多彩な測定モード
サブミクロンのビーム径がもたらす恩恵のひとつに、微小粒子の熱伝導率測定が可能になる点があげられます。ミクロンオーダーの粒径の放熱フィラーでも、中央にフォーカスを合わせて測定することができます。
InFocus κ FDTRは電動ステージによる走査に加えて、ガルバノミラーによるレーザービーム走査機構も搭載(プローブ光のみ)。瞳投影レンズと結像レンズを適切に組み合わせた走査光学系により、ビーム照射位置を変えても光は常に測定面に垂直に照射されます。これらの多彩な走査機構が、さまざまな測定モードを実現します。
ビームオフセットFDTR測定では、プローブ光の照射位置をポンプ光からずらしながら測定することで、面内の熱伝導率を感度よく測定することが可能です。また、ステージ走査によるFDTRマッピング測定では、熱伝導率の分布を可視化することが可能です。(いずれも近日中に実装予定)
独自のレーザースキャン機能を搭載
サイエンスエッジが得意とするレーザー走査光学系を搭載。ソフトウェアの顕微鏡画像の任意の位置をクリックするだけで、プローブ光の位置を瞬時に変えることが可能です。サンプル表面に対するプローブ光の入射角は垂直に維持されるため、スポット径の歪みを気にする必要はありません。
構成・仕様
仕様
型番 | InFocus κ FDTR |
---|---|
ポンプ光 | 445 nm スポット径: 1 um以下 ~ 5 um(可変) |
プローブ光 | 514 nm スポット径: およそ1 um |
対応トランスデューサー | Au |
変調周波数領域 | 200 kHz - 50 MHz |
その他 | マッピング測定機能 異方性測定対応 高分解能ラマン分光機能(オプション) 冷却加熱ステージ(オプション) |
※製品の仕様は予告なく変更する場合がございます。あらかじめご了承の上、詳細は都度ご確認ください。
※掲載の製品外観はコンセプトモデルであり、実際の製品外観とは異なります。あらかじめご了承ください。
アプリケーション
スピン熱伝導物質の熱伝導率の異方性評価
「スピン梯子(はしご)系銅酸化物」は、その名のとおりイオンが梯子状に並んだ独特な層状構造を持つ物質です。梯子の足方向(c軸方向)については、マグノンによる高い熱伝導率を示す一方で、ab面内はフォノンによる低い熱伝導率を示すことが知られています。
ここでは、スピン梯子系銅酸化物の中でも最大の室温熱伝導率を示す単結晶La5Ca9Cu24O41(LCCO)について、その熱伝導率の異方性を、InFocus κ FDTRにより評価しました。
ab面を露出させて樹脂包埋および研磨を行った単結晶LCCOの表面に、RFスパッタによりCr/Auをおよそ120 nmの厚みで成膜。ポンプ光の変調周波数を200 kHzから10 MHzの範囲で変化させながらサーモリフレクタンス信号の位相を遅れを測定し、円柱座標系の3層モデル(トランスデューサー/界面/LCCO)を用いてフィッティング解析を行いました。
結果は、面直方向(c軸方向)熱伝導率が45.3 W/mK、面内方向(ab面内方向)熱伝導率が5.1 W/mKとなりました。面直方向の熱伝導率の値は先行研究*の値とよく一致しています。また、LCCOではフォノン由来の面内熱伝導率はマグノン由来の面直方向熱伝導率の1/10程度であることが知られていますが、本測定においても、面内方向熱伝導率は面直方向の約1/10となり、従来の認識とよく合致する結果が得られました。
【謝辞】単結晶LCCOを作製いただいた東京電機大学の川股隆行先生、また本測定およびデータ解析について有益な助言をいただいた東北大学の寺門信明先生に深く感謝いたします。
*K. Naruse, et al. Solid State Commun. 154, 60–63 (2013).
LCCOの単位構造。c軸方向に沿って梯子面が寝ています。
(H. Kinoshita, et al., npj 2D Mater. Appl. 6, 70 (2022)より引用)
InFocus κ FDTRで測定した単結晶LCCOの位相データ
フィッティング解析結果(緑字がフィッティングパラメータ)
(公開日:2024年4月9日)
単結晶CVDダイヤモンドの熱伝導率の測定
ダイヤモンドのような極めて高い熱伝導率を持つ材料は、ポンプ光による十分な加熱を行うことが難しく、温度緩和あるいは位相遅れといった温度応答もごくわずかであるため、熱伝導率の定量評価が非常に難しい試料のひとつです。
サイエンスエッジは、京都大学の廣谷潤准教授と安倉祐樹氏(博士課程学生)との共同研究*により、わずかな位相遅れも高い感度で測定できる光学系を開発し、2,000 W/mKを超える高熱伝導率材料の熱伝導率測定を実現しました。
右のグラフは、高純度の単結晶CVDダイヤモンド基板を、InFocus κ FDTRで測定した位相データです。トランスデューサー(Au/Cr)とダイヤモンドの界面熱コンダクタンスおよびダイヤモンドの熱伝導率をパラメータとしてフィッティングを行った結果、ダイヤモンドの熱伝導率はおよそ2,334 W/mKであることが分かりました(右下表)。
*なお本研究の一部は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術創造研究開発機構)における、官民による若手研究者発掘支援事業/スタートアップ課題解決型の支援のもとで行われたものです。
InFocus κ FDTRで測定した単結晶CVDダイヤモンドの位相データ
フィッティング解析結果(緑字がフィッティングパラメータ)
(公開日:2024年2月28日)
周波数領域サーモリフレクタンス法を用いたアモルファス Ge1-xSnx 薄膜の熱伝導率の測定
Sn 組成の異なるアモルファス Ge1-xSnx 薄膜の熱伝導率を周波数領域サーモリフレクタンス法(FDTR)を用いて測定しました。その結果、アモルファス Ge1-xSnx 薄膜の熱伝導率は Sn組成が6%から 13%へ増加するにつれて 0.50 W/mK から 0.44 W/mK に減少し、最小熱伝導率モデルで計算されるアモルファス限界値とよく合致する傾向を示すことが分かりました。
(公開日:2023年3月24日)